2026年2月28日、米国とイスラエルによるイランへの大規模軍事攻撃を境に、世界のエネルギー物流の要衝・ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥っている。

イラン革命防衛隊(IRGC)が船舶向け無線で「通過禁止」を繰り返し放送し、EU海軍・英国海事貿易運用センター(UKMTO)も受信を確認。

公式な閉鎖宣言はないものの、保険会社が引き受けを停止する動きが相次ぎ、「実務上の封鎖」が現出している。

海峡を通過する船舶は約7割減少し、750隻以上が湾内で立ち往生している。

日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手3社はいずれも通峡を停止し、日本関係の船舶43隻がペルシャ湾内で待機中だ。

日本が輸入する原油の9割超は中東依存であり、代替ルートが実質存在しないホルムズ海峡の封鎖は、紅海危機とは次元の異なる打撃をもたらしうる。

国際原油価格はすでに攻撃前の1バレル73ドルから78ドルへと急上昇。戦争リスク保険料も数倍に高騰し、超大型原油船(VLCC)の日額運賃は20万ドルを超えたとも報じられている。

 

日本経済への打撃──エネルギー安全保障の急所

日本にとって、この危機は直接的な脅威だ。

日本が輸入する原油の9割超はサウジアラビアやUAEなど中東地域に依存しており、その大半がホルムズ海峡を経由して約20〜25日かけて運ばれてくる。

原油の中東依存度は2025年時点で約94%に達しており、今回の事態は日本のエネルギー安全保障の急所を直撃している。

資源エネルギー庁によると、2025年12月末時点の国家備蓄は国内の石油消費量の146日分相当。

出光興産は「石油製品の供給に直ちに影響が出ることはない」としており、短期的な供給断絶には耐えうる備えはある。しかし、長期化すれば話は別だ。

LNGについては、日本のカタール・オマーンからの調達は総輸入量の約6%程度であり、直接的な影響は原油ほど大きくない。

ただし、カタールのLNG輸出が停止すれば世界のLNG需給が崩れ、スポット価格が急騰する可能性がある。

日本企業のLNG売買契約の多くは石油価格連動型のため、原油高はLNG輸入価格をも押し上げ、電気料金の上昇へと連鎖する構造にある。

 

今後の3シナリオ

①短期収束(数週間以内

外交交渉や停戦合意により軍事行動が早期に収まれば、保険会社の姿勢も軟化し、通峡が再開される可能性がある。

この場合、原油価格は攻撃前水準に近づき、海運への直接影響は限定的にとどまる。

ただし、イランの最高指導者ハメネイ師の死亡が伝えられており、後継体制の混乱が収束の見通しを難しくしている。

 

②中期長期化(数か月単位)

封鎖状態が続いた場合、専門家の試算では原油価格はWTIで1バレル120〜140ドルまで急騰するとの見方がある。

日本経済はスタグフレーションに陥り、2026年のGDPは想定比0.6%程度押し下げられるとの予測もある。

円安との相乗効果でガソリン・電気料金が上昇し、家計・企業双方への打撃は深刻になる。

国家備蓄(消費量の約146日分相当)は当面の緩衝材になりうるが、長期化には対応できない。

 

③完全封鎖・拡大紛争

機雷敷設や米軍との本格交戦に発展した場合、原油価格は130ドル超に急騰するとゼロ・カーボン・アナリティクスは試算する。

世界のLNG需給も崩れ、欧州のエネルギー安全保障政策は大幅な見直しを迫られる。

トランプ政権の関税政策と重なり、世界経済は複合的なショックに直面する。

 

『今』、海運業界が問われるもの

逆説的ではあるが、海運株は本日(3月2日)そろって上昇した。

川崎汽船6%高、日本郵船・商船三井各4%高。運賃上昇への期待が働いた形だ。

しかし短期的な運賃高騰の裏には、荷主や実体経済への深刻なコスト転嫁が待っている。

「紅海、そしてホルムズ」──海峡という「瓶の首」が次々とリスクの震源となる時代が続いている。

今求められるのは、危機対応の即応体制にとどまらず、調達先の多様化・代替燃料への移行・地政学リスクを織り込んだ長期戦略の構築だ。

事態は刻一刻と動いている。

 

『今後』、海運業界が迫られる問いかけ

今回の危機は、グローバルなエネルギーサプライチェーンがいかに地政学リスクに対して脆弱であるかを改めて浮き彫りにした。

紅海危機、そして今回のホルムズ危機と、海峡という「瓶の首」が次々と問題化している。

日本の海運業界、そしてエネルギー産業には、単なる備蓄の積み増しにとどまらない戦略的な調達の多様化と、リスク下での迅速な意思決定体制の整備が問われている。

事態は数時間単位で動いている。今後の展開から目が離せない。(石﨑)

 

2026年3月3日現時点の各種報道(Bloomberg、日本経済新聞、NHK、時事通信、ロイター、ジェトロ、野村総研、日本総研等)をもとに作成(石崎)