ホルムズ海峡の重み

 

米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始した。

海運の世界では、こういう瞬間に静かな恐怖が走る。

世界地図を広げて、ペルシャ湾の出口に目を向けてほしい。

幅わずか約50kmの細長い水道、ホルムズ海峡。

ここを毎日、世界の原油の約2割にあたる1,650万バレルが船で通り抜けていく。

その「世界の咽喉元」が今、かつてないほど緊張にさらされている。

 

もしホルムズ海峡が「閉まったら」

イランには、強力な軍事力で反撃する余力はない。

しかし、一つだけ持っている切り札がある。ホルムズ海峡の封鎖だ。

実際、イランの強硬派議員は「封鎖は選択肢にある」と警告を発している。

もしそれが現実になれば──原油価格は100ドルを超え、日本のガソリンスタンドの価格表示も、すぐに書き換えられることになるだろう。

 

なぜ日本がダメージを受けるのか

日本にとって、ホルムズ海峡は「遠い話」では済まない。

日本が輸入する原油の約95%は中東産で、そのタンカーの大半がホルムズ海峡を通る。

言い換えれば、この50kmの水道が詰まれば、日本のエネルギー供給は即座に揺らぐ。

ガソリン代が上がる。

電気代が上がる。

工場の稼働コストが上がり、食品や日用品の値段が上がる。

日本は産油国ではない。エネルギーをほぼ丸ごと輸入に頼っている以上、海峡の動向は、私たちの生活に直結する。

 

私たちが毎日使うガソリン、プラスチック、電気──そのすべての出発点が、この50kmの海峡なのだ。

 

封鎖がなくても、すでにコストは上がっている

 

見えにくいコスト、「戦時保険料」という現実

実は、戦争が起きなくても海運業界はすでに動いている。

戦時追加保険料(War Risk Surcharge)」と呼ばれる特別な保険料が、紛争海域を航行する船には課せられる。

平時の数倍になることもある。数日間の航行に対して、船の資産価格の数パーセントが保険料として上乗せされるケースもある。

この費用は最終的に、荷主や消費者へと静かに転嫁されていく。

商船三井はすでに自社の船に注意喚起を発令。

一部の船会社は航路をアフリカ南端の喜望峰経由に切り替え始めている。

距離にして約7,000km増、時間にして2週間以上の迂回だ。コストは当然、大幅に膨らむ。

 

 

船長は無線に耳を澄ます

保険会社からの警告が入る。

戦時追加保険料、発動」。

そのたった一言で、この航行のコストは跳ね上がる

引き返すか、進むか。どちらを選んでも、誰かがそのツケを払うことになる。

日本が輸入する原油の8割は、この海峡を通る。

毎日、巨大なタンカーが列をなして通り抜けるこの50kmが今、歴史上もっとも不安定な状態にある。

ホルムズが揺れると、日本の値札が揺れる。(石﨑)